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勝者の微笑み
一時間ほどで飛行機は目的地に到着した。
「上着がいらない」
自宅を出たとき襟をしっかり綴じて着ていた上着も今は荷物になっている。
手荷物を受け取って空港のロビーに出ると、目の前に同じ飛行機に乗ってきた女子大生のグループが固まって騒いでいる。見ればその中心に夏の制服を着て制帽を手にさげた琴浦が立っていた。
桃子を見つけると、大きく目を見開き一歩踏み出そうとして女子大生にまとわりつかれている。
「こんなかっこいいお巡りさんがいるなんて信じらんない!」
「お仕事いつ終わるんですか?」
「一緒に遊びにいきましょう」
桃子より若くて可愛くて自信が溢れる彼女たちと、みすぼらしい自分をどうしても比べてしまう。露出の多い彼女たちの服装もまた眩しく思えた。
「すみません。ツレがいるので」
琴浦はかしましいグループから抜け出そうとしているが、桃子が怯えるように後ずさりすると中途半端に持ち上げた腕を止めて目をまんまるにして見つめてきた。
その視線から逃れたい一心で桃子は荷物を抱えてロビーを飛び出す。止まっていたタクシーに飛び乗ると、運転手に見晴らしのきれいなホテルへ連れて行ってくれと言っていた。
ホテルにチェックインし、部屋に入って扉をしめる。タクシーの運転手に頼んで連れてきてもらったリゾートホテルにシングルルームがなかったのでダブルルームになってしまったが、広いベッドは非日常的で気分転換になった。荷物を置きオーシャンビューが売りの眺望を眺めようとバルコニーに出てみる。
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