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「わぁ」
太平洋が目の前に広がる様は雄大で美しい。紺碧という言葉が思い浮かんだが、これがその紺碧という色なのか桃子にはわからなかった。
バルコニーの手すりに肘をつきぼんやりと眺めているうち、なんだか疲れてきてしまった。そういえば飛行機に乗ったのも初めてだった。一人でこんな遠くまでくるのも、きっと初めてだと思う。
(あのタクシーの運転手さん、親切だったな)
この島に数人いるという女性のドライバーで、桃子が傷心旅行にでもきたと思ったらしく「とっておきのホテルを身内価格で案内する」といってここまで案内してくれたのだ。名刺までくれたので、もしかしたら自殺するとか思われたのかもしれない。
ホテルには大浴場もあるらしいが、とりあえず少し休もうとベッドに倒れた。広いベッドに大の字になって目を閉じた。
琴浦の持っている仕事用のガラケーに着信があったのは、桃子を見失って30分ほどあと。あのかしましい女子大生のグループから逃れてミニパトに戻ってすぐのことだった。
電話の内容は若い女の一人客を乗せたというものだった。この島にくるというのにホテルの予約もしておらず、様子がおかしかったのでもしかしたらと心配したらしい。
「わかりました。ご連絡ありがとうございます」
ロビーで女子大生たちにもみくちゃにされる間、首を伸ばして連絡をよこしたタクシー運転手が乗車するタクシーに乗り込む桃子を見ていたのだ。
「どこに連れていきましたか?」
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