一九四二年

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 言われなくても、配達員が、いや兵事係が何を届けに来たのかは既に分かっていた。否、まず夜に戸を叩かれた時点で、それはほぼ確定しているようなものであった。  臨時召集令状である。  修二さんはニ寸半ほどの赤紙を片手に元の席に座り、再び玄米を口に運び始める。しばらくそれを裏向けたり、上下をひっくり返しながらしげしげと眺めていたが、やがて私に手渡してきた。読んでみろ、ということらしい。 東部第七海兵部隊 大東亜戦争海軍歩白兵要員トシテ召集ス 依テ一月廿日ニ左記ノ事務所ニ此ノ令状ヲ以テ届出ラレルベシ  左の方に、その日に行くべき場所が書いてあった。ここから汽車に乗って数駅の場所である。 私はこれを見て、何とも形容しがたい怒りに駆られた。たったこれだけのもので、たったこの一銭五厘ばかりの紙で、私の夫は兵として駆り出されるのだ。それも、進んで死地に行くのだ。  御国のためにと、見たこともない上官の身勝手に付き合わされるのだ。 「……御馳走様」  見れば、修二さんは既に玄米を食べ終え、自室に向かうところであった。それ以上は何も言わずに、襖を開け奥の部屋に消えていく。私はしばし、呆然としていた。 「……修二さん」自分でも気づかぬうちに、泣いていたらしい。手の上に一つ二つと涙が溢れていた。     
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