一九四二年

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一九四二年

**********  夜の闇が空を覆う頃、戸を叩く音が聞こえた。私と修二さんは小さな円卓を囲み、先日支給された玄米を食べているところであったが、互いに驚きと悲哀とが混じった表情で、しばし飯を食べるのも忘れ、同時に顔を見合わせた。 「私が行きます」と咄嗟に立ち上がろうとしたのを修二さんは手で制し、何も言わずに自ら玄関に向かった。  私は戸を叩いた者の用件に対し、未だ気づいていないふりをしていたが、心臓が恐ろしく早く鼓動しているのがわかった。平静を装いながら玄米を口に含むが、喉が乾いているため上手く飲み込めない。水を飲んでみても、潤った感覚もなかった。  玄関の方に聞き耳をたててみると、「牛島修二さんですね」「おめでとうございます」「受領の印鑑をお願いします」などという声が聞こえる。心を落ちつけようとしながらも、まさか、と私は思っていた。  やがて修二さんが部屋に戻ってきた。私はまともに修二さんの顔を見ることができず、しかしできる限り無知を装いながら「何でしたか?」と問う。笑顔を作ったはずなのに、口の端が引きつっているのを感じた。 「……」修二さんは、何も言わなかった。 「……そうでしたか」     
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