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多分、付き合い始めてから二人で居るところを見られたのはその時だけだ。
転校生の五十嵐君は気が付いているのかもしれないけれど、何も言わない。
毎週の様に俺の実家に行って、平日は俺が糸を洗う。
辛いはずなのに、彼の口からは弱音や愚痴が出たことは無い。
いつもたわいもない、それこそ普通の友人がする様な話をしている。
小西先輩のことを聞かれたことは無い。
同室の山田にも聞かれたことは無かったし、周りに触れ回った感じもしない。
以前と何一つ変わらない生活だ。
だけど、たった一つだけ変わったことがある。
夜6時少し前、預かっているカードキーで役員専用フロアに向かう。
あの人が帰ってきているかは五分五分だ。
今日はまだ、帰ってきていないようだった。
カードキーを使って部屋に入るのは、全くなれない。
五十嵐君も直ぐに来て、絡まった糸を解した。
彼の引きつける体質は最初の予想通り中々治ることは無かった。
作業が終わった頃丁度あの人が帰ってきた。
「ただいまぁ。」
それじゃあ、と言って五十嵐君は席を立った。
これも大体いつもの日常だった。
二人きりになった。
「夕ご飯、食べようか。」
学園での間の伸びた様なしゃべり方が、影をひそめる。
俺が自炊をするか、デリバリーを取るか大体毎日食事を一緒にしている。
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