ALONE

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ALONE

 この国では、花が咲かない。  遥か昔、一人の若者が森深くに住む魔女に恋をした。 「誕生日に歳の数だけ花をくれたら、貴方の恋人になるわ」  若者は花を集めて、魔女に捧げる。 「全然足りないわ。私はもっと生きてきてるの」  毎年毎年、若者は山ほどの花を届けた。しかし魔女は受け容れない。 「もっと、もっとよ」  魔女は考えていた。無理難題を強いれば、若者はいつか諦めるだろうと。人と魔女との恋など、上手くいくはずがないのだから。  それでも若者は諦めなかった。だがその翌年、高山に咲く花を集めている最中に滑落し命を落とした。  それを知った魔女は哀しみに暮れ、自分も若者を愛していた事に漸く気づいた。  花を見るとどうしても若者を思い出してしまうのが辛くて、魔女は国中の花を全て魔法で消し去り、異国へと旅立った。  以来、この国では花が咲かない。  花が咲かねば実もならない。  食物飢餓によって、国は滅びた。  月日は流れ、魔女は思い出の故郷へと戻ってきた。しかし、そこには荒れ果てた大地が拡がるのみだった。 「嗚呼、私は彼だけでなく、この国すべての生きとし生ける物の命を奪ってしまったのね」  泣き崩れる彼女を慰める者は、誰もいない。  草も木も生えない荒涼の地に、独りの魔女が棲むという。  彼女は今も忘れない。  かつてこの地に咲き乱れていた、無限の花々の美しさを。  そして若者の愛を─。  忘れぬ事がせめてもの祈りであると、彼女は今日も祈りを捧げる。
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