ハートを鷲掴み

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ハートを鷲掴み

 児童書から参考書、一般書、楽譜まで――彼の両親がやっている書店は個人経営にしては充実している。  本棚の整理をする彼に、友人の中でも一番のイケメンが近づいてきた。背は高く、一年の時からサッカー部のレギュラー。ただし、壊滅的に勉強ができない。 「頼む! あの子が喜びそうな本を選んでくれ」  目で示された人物を見て、彼は息が止まりそうになった。  毎日店に来る二人組の女子高生の一人だ。ロングヘアで目元の涼やかな美人。  彼が毎日店を手伝うのは、本が好きだからだが、彼女の存在も大きかった。 「あの子、頭が良さそうだし、馬鹿な俺が告っても断られそうだろ? 本で知性をアピールしたいんだ」  彼は平静を装って、彼女の雰囲気に合った、大人の純愛小説をラッピングした。  告白する勇気のない自分に、人の恋路を邪魔する権利はないと思ったし、彼女が友人の知的レベルに気づいたときに、この本を選んだ自分に興味を持つかも、という昏い下心があった。  数日後、友人が書店にきた。  彼女からの手紙を手に。美しい字で書かれた感想文は内容も的確で、言葉のチョイスも素晴らしい。     
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