9人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
【01】
穏やかな昼下りのカフェテラスでは
誰もが幸せそうだ。
佐野正志[さの ただし]は
眼鏡を人差し指で直し、マグカップを口へ運ぶ。
彼の前に座る山尾夏菜子[やまお かなこ]も
嬉しそうな顔で
大好物のミルクレープを楽しんでいる。
二人は一見、ごく普通のカップルだ。
しかし彼女には
他の人とは明らかに違うところがある。
「覚えてるか?
三年前の今日、ココで僕が告白したんだ」
正志の質問を聞くと
夏菜子は口の中のミルクレープを飲み込み、
笑顔で答えた。
「ぜーんぜんっ!」
夏菜子は一切の記憶を失っているのだ。
今から一ヶ月前のことだ。
夏菜子は頭に大怪我をした。
その時、正志は彼女と一緒に居た。
病院に駆け付けた夏菜子の父親に
思い切り殴られて切れた唇は未だに痛い。
その時、眼鏡も1つダメにした。
病院から半ば追い出される様に帰宅した後も
心は病院に居た。
このまま夏菜子は死んでしまうんじゃないか…
正志は不安のあまり、
心が潰れてしまいそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!