chapter.1

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【01】  穏やかな昼下りのカフェテラスでは 誰もが幸せそうだ。 佐野正志[さの ただし]は 眼鏡を人差し指で直し、マグカップを口へ運ぶ。 彼の前に座る山尾夏菜子[やまお かなこ]も 嬉しそうな顔で 大好物のミルクレープを楽しんでいる。 二人は一見、ごく普通のカップルだ。 しかし彼女には 他の人とは明らかに違うところがある。 「覚えてるか? 三年前の今日、ココで僕が告白したんだ」 正志の質問を聞くと 夏菜子は口の中のミルクレープを飲み込み、 笑顔で答えた。 「ぜーんぜんっ!」 夏菜子は一切の記憶を失っているのだ。 今から一ヶ月前のことだ。 夏菜子は頭に大怪我をした。 その時、正志は彼女と一緒に居た。 病院に駆け付けた夏菜子の父親に 思い切り殴られて切れた唇は未だに痛い。 その時、眼鏡も1つダメにした。 病院から半ば追い出される様に帰宅した後も 心は病院に居た。 このまま夏菜子は死んでしまうんじゃないか… 正志は不安のあまり、 心が潰れてしまいそうだった。
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