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 店の女中たちが物珍しいものはないかと見に行くのに紛れ、葉も並んだ品を覗き見る。  一畳分ほどの毛氈(もうせん)の上に所狭しと並べられた品々の端に、ひっそりと置かれたそれに目を吸い寄せられる。  小さな桐箱の中、艶のある白絹の上に乗せられた数珠。透明な石は水晶だろうか。  そういえば、水晶は邪気を祓うと聞いたことがある。  だが、相当に値が張るだろう。  少し迷ったが、こそりと小間物売りに値段を尋ねると、男は数珠と葉を見比べ、辺りを憚るように声を潜めた。 「あれはいろんな人の手を渡ってきた曰くつきだ。あれに目を留めるたあ、何やら困っていなさるね」  そう言って意味ありげな目を向けてくる男に、葉は思わず事情を話していた。  口を真一文字に引き結び、神妙な面持ちで聞いていた小間物売りは、一つ頷くと小さな桐箱を取り上げて蓋をし、葉に差し出した。 「常から、こいつはあんたみたいに困った人の手元に行くようになってるんだと思っていたよ。何しろ、誰も見向きもしねえからな。お代はあんたが払えるだけでいい」  葉は袂から袋を取り出し、そのまま小間物売りに差し出した。  この二年でこつこつ貯めた六百文。何かの時のために、と思っての蓄えだったが、今はとにかくこの数珠を買わなければ、と思っていた。     
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