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「……なんで俺には呼び捨てなんだ、おい」
「テリオは“先生”って感じがしないんだよなぁ……。剣の腕だけはまぁまぁってところだけど」
テリオはといえば、あれからも孤児院に残り続け子供たちの世話をしていた。流石に数年もその状態で暮らせば、嫌でも片腕で大概のことはこなせるようになっていたものの、街で働くにはどうしても困難が付きまとうためである。
「へぇ……こいつは敬いたくなるように指導する必要があるかもなぁ」
「うわっ。洗濯物を片付けるんじゃなかったのかよ! ……逃げろっ」
カゴを置き、ゆらりと体の向きを変えるテリオを見て、男の子は慌てて孤児院の中へと引っ込んでいく。
一応、先生としてカリダの手伝いをしているのだが、小さいころから問題児で通っていたテリオである。上を見ても下を見ても、テリオを先生として扱うものは指折り数える程度しかいなかった。
「――剣の腕……か……」
先生としての仕事をしている以上、カリダから給料を渡されているものの――依然変わらず孤児院内で生活しているため、どうしても気兼ねしてしまう。
そのためテリオは、先生としての仕事がない時は小金稼ぎに魔物を狩っていた。
おかげで、依然と同じかそれ以上に剣を振るえるようにはなったが、剣の腕というなれば、同じ隻腕で騎士団として活躍しているクルーデがいるのだ。生徒である子供たちに評価されたところで、苦笑いを浮かべるしかない。
「昔はよく村にも顔を出してたんだがなぁ……」
洗濯物を取り込むのを再開して、テリオはぼんやりと呟く。
クルーデは騎士団の仕事のため、村に顔を出すことも少なくなっているし、もう一人の幼馴染であるミーテはと言えば、早々に婚約して孤児院から出てゆき、今は家を守る立場に落ち着いている。最後に三人で集まったのはいつだったか、と考えていたそのとき。
不意に、異変が起きた。
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