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――ドクンッ。
「――――っ!?」
謎の脈動を、まるで心臓を直接殴られたかのような痛みを感じ、胸を押さえるテリオ。痛みは次第に強くなっていき、遂には膝から地面に崩れ落ちる。
――ドクンッ。
世界が震えていた。鼓動していた。
それに共鳴しているかのように、痛みはテリオの全身を駆け巡る。
「くっうぅうう……」
膝をつくテリオの腕が物干しざおに引っかかり、ガシャンと激しい音を立てて倒れた。地面が石畳ということもあり何度か衝撃で跳ねる物干しざお。その音が孤児院内にも響いたためか、子供たちがテリオの方に駆け寄っていく。
「……先生、どうしたの? 凄い音がしたよ」
「どうしたんだよテリオ。洗濯物が汚れて――ってもう取り込んでんのか」
テリオは黒く染まりつつある視界の中で、脂汗を流しながら痛みに耐えていた。この事態に子供たちに影響は出ていないかと心配していたテリオだったが、何も異常は起きておらず。
「お前ら……なんともないのか……」
自分と同じように痛み感じている様子もなく、テリオが安心したのも束の間――例の脈動が更に大きくなって訪れた。
――ドクンッ!
「ぐっ……ぅ……!?」
「先生……!?」
黒に、白に、ちかちかと点滅する視界。全身にヒビが入るかのような痛みはテリオの許容限界を超えていた。気を抜けば叫びそうになる。静かにしてくれと怒鳴り散らしそうになる。それらを必死に抑えつけ、何とか声を絞り出し子供たちに頼むテリオ。
「だ、大丈夫。……カリダ先生を……呼んできてくれるか?」
「う、うん……」
それを聞いた子供たちは、頷いて孤児院の中へと走り出す。遠くなっていく足音を聞きながら、歯を食いしばって耐えるテリオ。すると落ち着いてきたからか、時間の経つにつれ脈動は弱まっていき、痛みの波も少しずつ引いていった。
それに合わせてテリオも身体の力を抜いていく。
「はっ……はっ……」
少しでも楽になるよう、小刻みに息を吐く。俯いた体を捻るようにして、仰向けに体勢を変える。
――空を見上げると、一面の曇天。鈍重な、分厚い雲が空を覆い尽くしている。雨が近いからか風も湿り気を帯び、遠い昔に食われて無くなった右腕の先がじくじくと疼いていた。
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