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「カリダさんっ、大変だ!」
「どうしたんだい。こんな時間に、大慌てで尋ねて来て」
時刻は夕方をとうに過ぎ、日も落ちていた。孤児院の子供たちの食事が終わり、年少組は眠ろうかという時間である。何事かと院長であるカリダが玄関口へと顔を出すと、街での仕事に就いていた村の男が肩で息をしながら佇んでいた。
「カリダさん、街で聞いたときは耳を疑ったよ! 落ち着いて聞いてくれよ!?」
「……子供たちが眠る時間だ。あんまり大声を出さないでおくれ」
いつもならば、ノックもせずに駆け込んできた男など怒鳴って追い返すカリダだったが、男の表情があまりにも真剣だったため続きを促した。
「クルーデが……、騎士団長を殺して……脱走したらしい」
「……なんだって?」
「クルーデが……?」
不意に聞こえてきた声に、カリダが振り向くと――激痛によって倒れ、今の今までベッドの上に寝かされていたテリオの姿が。顔色は戻っているものの足元はまだおぼつかず、壁にもたれながら自身の身体を支えていた。
「もう起き上がっても大丈夫なのかい?」
「あ、ああ……」
カリダが心配して声をかけるも、テリオは心ここにあらずといった面持ちでで立ち尽くしている。
「妙に慌ただしくなってるからさ……だ、団員の一人に話を聞いたんだ。で、カリダさんには直ぐに知らせないと、と思ったんだが……」
用意された水を一口飲んで、男は話を続ける。余程体力の限りに走ってきたのか、それとも興奮しているのか。ろくに息の整わない状態だった。
「任務が終わって戻った矢先――今から三時間ほど前の出来事らしい」
「三時間前……あの時だ……」
――あの時。孤児院の庭で、ちょうどテリオが倒れたあたりである。カリダにも子供たちにも、何か変なことは起きなかったかと聞いて回ったが、思ったような反応は得られず。やはりあれは自分だけだったのかと半ば諦めながらも。それでもなおテリオの直感が、いいやなにか関係があるはずだと告げていた。
「脱走と言ったって、どこに――」
そして、カリダが尋ねようとした次の瞬間――
「きゃああああああ!」
孤児院の外、村の至る所から悲鳴が上がり始めたのだった。
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