1章 隻腕のテリオと美食行脚の円還竜《ウロボロス》

1/4
前へ
/335ページ
次へ

1章 隻腕のテリオと美食行脚の円還竜《ウロボロス》

 鬱蒼とした暗い森の中、木々の間から降る陽光は斑に。地面には小さな川が流れており、木々が苔生(こけむ)して。故に地表には冷たく、湿った空気が漂っている。  ――ここは小さな大陸の中にポツンとある村、ルヴニール。そのすぐ傍に位置する森の中で。ルヴニールの孤児院の年長組であるテリオ、クルーデ、ミーテの三人は遊んでいた。 「今日こそ調子は万全か? ここのところ、俺の勝ちが続いてるのを忘れるなよ」 「言ってろよ、クルーデ。あんまり驕ってると、足元掬われるんだからな?」 「ふ、二人とも待って!」  少年たち二人は、いつの日か憧れである騎士団に入るため、剣の修行として魔物を狩りに森へと入ってきたのだった。そんな二人に置いて行かれたくないと、少女は必死に後を追い続ける。 「――ほら、もう俺は五体目だぞ!」  クルーデに剣を持たせれば右に出る者は無く――例え孤児院出身でも、これなら騎士団へと入るのも夢ではないんじゃないかと大人たちの間で囁かれるほど。 「ま、まだ一体しか差がついてないだろ!」  対してテリオは剣術も勉学もからきしの問題児。何をやらせても結果は付いてこず、本人には努力する気が欠片もない。小さい頃こそはよくクルーデと競り合っていたのだが、いつしか差は開いていき――テリオがクルーデに勝つことなど、今では数える程のものだった。 「もう! 怪我しても知らないんだから!」  三人は今や遊び場に等しい森の中を進んでゆく。  ――奥へ、奥へと。  森へとやってきた、異様な気配にも気づかないまま。
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加