Ⅳ. 羽を広げた、このよき日よ

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「酉御君」 囁くような声に顔をあげる。尾花さんは、今度はこちらを振り返っていた。 俺が余程酷い顔をしていたのだろう、諭すように指を添え、まるで安心させるかのような声色で言う。 「君は、君自身とお友達のことだけを考えなさい。外へ出たら、ここでの関係性は全部無にかえって、ほとんど別人になってしまう可能性だってあるんだ。今のうちに塩貝さんの可愛い顔をしっかり叩きこんどくのよ」 あ、お顔は変わんないから、ばったり出会った時にはちゃんとわかるはずよ、と尾花さん。はあ、とあいまいな返事をした俺は、何故か不貞腐れたような表情だ。なんだか面白くない。一人だけ大人ですって顔をして……いや、事実尾花さんは俺から見たら大人なんだけど。 何故か後ろで、薬代が笑っている声がする。何なんだと、また面白くないと思ってしまうが、それはさておき。 「……」 気がかりな事は数え切れないほどある。しかし、俺は、後ろをついてくる2人の人物、いや、俺自身も含めた3人の事に使える思考を割こうを思い直す。 きっと薬代が上手く聞き出してくれる。気にしないふりをしながら、それでも耳を側立てながら、俺は手足を前に差し出した。
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