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――――――
手触りのよい白衣を纏って、研究所の扉を閉める時、「予感」があった。
時折身体が察知する何かの感覚。それがいいものなのか、わるいものなのか、その区別まではつかないものだから、なにかあるわけではない。
兎に角そんなものを感じる時があって、それがまた今日だった。
支給の特製弁当の量が増し増しになっただとか、優秀な右腕がさっそうと現れて、苦い重い業務作業の負担が少し減っただとか……はたまた、体重増加警報の予備発動?
いいじゃないか空想。フリーダムは自由だ、いやフリーダムが自由か。人は楽しい考えに埋め尽くされていたほうが、いきたい方へに辿りつく。
でもなんだろう。歩き始めて、私の思考はいつもは辿らない深い所に持っていかれる。
今日の「予感」はいつもとちょっと、毛色が違うぞ?
「……」
ふと見上げた時、私は、「私」が残していたものを見て、そうかと納得し、声に出した。
「……『今日』だったのね」
他人に聞かれていたとしたら、私の声は、どんな色に映っただろう。
無機質で真っ白な天井を見上げたまま、私は、ここからでは決して見る事の出来ない空を見ようとする。
目を見張るような青。沢山の問いかけをくれた、知とはじまりの色。
胸の中で呟いた。許してほしい、と別の存在に願いながら。
私は忘れられた事のない、彼の顔を思い浮かべる。
―――ヒトは、笑顔を浮かべる事が出来る唯一の生物なんだよ。
笑顔を浮かべるのはあなたと、彼だけでいい。それ以上は望めない。
ただ、もしあの日の続きを見られたなら、その時は。
―――また一緒に、知の冒険に行こう。
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