Ⅲ.胡桃にまつわる外の世界

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お察しの通り、この胡桃の中の世界は、外の世界の後につくられたものになる。何故、どういった経緯(いきさつ)でつくられたのか。 夢の世界、といったね。そう、世界は夢を見た。あらゆる科学技術を生み出し、生物界の頂点に立った人類という種は、その強欲(ねつじょう)を留めるどころか、さらなる高みを目指した。同じ種の中でもあらゆるカテゴリにわけられる我々という種は、領土やら信じるものの対象やらで対立と団結を繰り返し…頭の中の人類史をちょこっと覗けばわかるよね?まあ、愚かといえそうさ。とうとう散々繰り出してきた武力やら兵器やらをおさめ込み、平和という領域について考えだした。誰かが言った。「争い」を生みださず、手を取り合うにはどうすればよいか……ある誰かがこう言った。「争い」という、と。 概念の削除。ヒト特有の言葉、共有されている意思疎通のパーツを操作し、統一することが出来たとしたら。いやしかし、人権はどうなる。そもそも夢物語を語って何になる……会議は踊ったけれど、ある人物が曲を止めたよ。 そいつはデスクに置かれた胡桃を摘まんで、そうですねえ、うちの国で、ひとつ胡桃を作ってみるのはいかがでしょう、と言ったんだ。 『―――もう一段階進化したヒトの世をつくりましょう。そういった分野に一役買ってくれそうな研究者の候補がいましてね……そこで「争い」という言葉を知らずに生まれる、いや、もっと平和的にされた、更なる高貴な遺伝子の申し子達の世界が成立すれば……いつか我々も、その恩恵を受ける事ができるでしょう。 それを前にすれば我々も、「人権」という言葉さえ忘れてしまうくらいのギフトを、受ける事が可能となるでしょう―――』
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