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「ということで尾花さん、窓庭研究所の内定は、蹴らせていただきます」
正式に礼を設け、顔をあげると、不思議な表情をした尾花さんと目が合った。興味深いのが半分、呆れ半分といったところだろう。
「君って本当に律義ね」
「本当は残念です。結構ここでの生活、気にいってましたから。
でも、眠ってるだけの仕事なんて、まっぴらごめんです」
「うん、眠らせるだけじゃもったいない子だよ、君は」
―ケイカク ゾッコウ ムカウノ マウエ 「ソラ」ノ チュウスウ
「ああ。行こう」
頷く尾花さんと薬代。俺はその隣に、一人分の影を見る。
待ちくたびれたよといいながら俺の背中を押すだろうその影を、俺は鮮明に記憶する。きっと、今でも。
上層へと続く「ソラ」への通路の場所を、尾花さんが静かに示した。
ハンドルをひねると、排水管のような狭い通路が続いている。あまり積極的に通りたいとは思えない道だ。
でも、行き止まってしまう道と比べれば、はるかにいい。
忘れてしまったものも、確かにいたものも、もう一度抱き直して殻を破ろう。
俺は暗く伸びる道の中へ静かに潜り込み、入口のドアを、硬く閉じた。
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