Ⅲ.胡桃にまつわる外の世界

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「ということで尾花さん、窓庭研究所の内定は、蹴らせていただきます」 正式に礼を設け、顔をあげると、不思議な表情をした尾花さんと目が合った。興味深いのが半分、呆れ半分といったところだろう。 「君って本当に律義ね」 「本当は残念です。結構ここでの生活、気にいってましたから。 でも、眠ってるだけの仕事なんて、まっぴらごめんです」 「うん、眠らせるだけじゃもったいない子だよ、君は」 ―ケイカク ゾッコウ ムカウノ マウエ 「ソラ」ノ チュウスウ 「ああ。行こう」 頷く尾花さんと薬代。俺はその隣に、一人分の影を見る。 待ちくたびれたよといいながら俺の背中を押すだろうその影を、俺は鮮明に記憶する。きっと、今でも。 上層へと続く「ソラ」への通路の場所を、尾花さんが静かに示した。 ハンドルをひねると、排水管のような狭い通路が続いている。あまり積極的に通りたいとは思えない道だ。 でも、行き止まってしまう道と比べれば、はるかにいい。 忘れてしまったものも、確かにいたものも、もう一度抱き直して殻を破ろう。 俺は暗く伸びる道の中へ静かに潜り込み、入口のドアを、硬く閉じた。
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