Ⅳ. 羽を広げた、このよき日よ

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配管の中には、三人分の前進音のみが響き渡る。 屈んで前を行く尾花さんの背中を、じっと見つめる。 この世界のシステムを作った発端者だというこの人は、つまり元々外の人間だ。 外にあった研究室の主で、この世界が成り立っているシステムの親のようなもので。 しかし、その主導権は尾花さんの手を離れ、彼女より権威も影響力もある人間達の手のひらにあるという。同意の上なのか有無を言わさずなのか、それはわからない。けれど、育ててきたものを引きはがされてしまえば、複雑な心境が芽生えるだろう。 ―――本意なんですか。 自分よりも長く時を生きてきた、その女性の背中に語りかける。 彼女の研究は、この世界は、確かに殻の中に住む者達の権利を剥奪し続けている。 しかし同時に、外の人類が羨む力を備えているのも確かなのだという。 ―――殻の中の事情を思って憤慨して、終わらせようとしてくれているのは嬉しい。でも、それを無に還すということは、つまるところ貴女が研究と共に生きた時間を無かった事にするのと、同義なんじゃないんですか。 そこで俺はあれ?と思う。今向っている「ソラ」について。そこにはこの世界の仕組みの要である「ノウ」がある。 尾花さんは俺を、「ノウ」の後継者だと言った。後継者(・・・)()の後継なんだ。今、その中には誰が入っている(・・・・・・・)
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