第一章 まっかなおとぎばなし

2/9
前へ
/13ページ
次へ
1  茨城県ひたちなか市にある茨城工業高等専門学校の学生食堂は一時期二年で業者が三回も変わる呪われた食堂なんて言われていた時期があった。  しかしそんなことを知る人間も殆ど少なくなってしまい、今や五年生の僕たちぐらいしか知ることはない。  今日も日替わり定食を注文しながら僕はそんなことを考えるのであった。 「今日は空いているな、ラッキー」  券売機から手に入れた食券をおばちゃんに手渡して一分あまりで料理が出てくる。  料理、と言っても既に出来ている物をそのまま提供するだけだからはっきり言って温い。  ひどいときはご飯がつきたてのお餅かと言わんばかりのもちもちぶりを発揮している時もある(要するに柔らかすぎてご飯がお米の形を成していない、ということ)。  でも今日のご飯はお米の形を限りなく近い形で維持しているようで何より。  最近はお米の形も安定しているからやっと水の量を憶えてくれたのかもしれない。  それくらい仕事なんだからちゃんとしてくれ、とは言いたいところでもあるけれど。  おかずと味噌汁とご飯を貰った僕はウォーターサーバーからコップに水を注ぐ。  そばに置かれているふりかけをご飯にかけて漬物を二回分ご飯の上にのせるとできあがり。  ちなみに今日のメニューは唐揚げ定食。  定番中の定番だ。  揚げたて――とは言いがたいしなびた唐揚げが三つとサラダがのせられている。  サラダのキャベツはまだ切り立てというかできたてというかシャキシャキしている瑞々しさを感じさせた。  一番窓側の列は避けて、その隣の列、通路側に陣取る。  ここが僕のパーソナルスペース(使い方が間違っているような気もするけれど)だ。  なぜ一番窓側の列は避けるのかというと、先生達が普段食事に使う場所だからだ。  別にそこを専用としているわけじゃないけれど、何故だか先生は学生との交流を嫌う傾向にある。  だからなのか、何なのかは知らないけれど、どうしてだか先生はあそこに座りたがる。  座りたいだけなのかもしれないし、わざわざ避けたいだけなのかもしれない。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加