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針金のような、少女の白いほっそりとした足をを包み込むブーツのかかとが、コツコツと硬い音を静寂の中に放ちながら、足跡を刻む。
この街には、父の別宅と診療所がある。
この、父の別宅まで続く道をもう何度往来しただろうか。
少し感傷に浸りながらも急ぎ歩いていると、その静寂を突き破るかのように、ドオンと大きな爆発音が夜空に轟いた。
方角から、自分の向かっていた場所だと解る。
ざわざわと、激しい胸騒ぎがした。
大きな火柱とどす黒い黒煙が天高く吹き上がり、曇った夜空に吸い込まれていく。
少女は小さく舌打ちをすると、火柱の上がる建物の方へ小走りに駆け出した。
数分後、その場に辿り着いた時には既に、大きな爆音に慌てた付近の住人たちが夜具のまま飛び出して来て、幾重にも人垣を作っていた。
「すみません、通して下さい。お願いします・・通して!!」
その野次馬を必死にかき分け、黒煙吹き上がる家のドアの前に辿り着くと、少女はためらう事なくドアノブを掴もうと手を差し出した。
咄嗟にお婆さんが少女の肩を強く掴んで叫んだ。
「駄目だよ、こんなに激しく燃えているのに! 入ったら焼け死んでしまうよ!」
お婆さんの必死の形相に、少女は我に返った。
そのお婆さんを優しく見つめ、その手をそっと握り、腕から手を離すと少女は優しく微笑みかけた。
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