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「ありがとうございます、優しいお婆さん。でも、私はどうしても行かなければなら ないのです。・・後ろに下がって居て下さい。ドアを開けます」
優しく微笑みながらそう告げると、頭に被っていたスカーフを外し、掌にぐるぐると巻き付け、ドアに駆け寄り一気にドアノブを引き、扉を開けた。
途端、凄まじい熱風とどす黒い黒煙、パチパチと火花を散らす火の粉が少女を包みこんだ。
「きゃあああ!」
後ろにいた人々から、余りの熱さに悲鳴が上がった。
手で顔を覆おうとすると、手に巻き付けていたスカーフが爆風と共に飛び去って行った。
「・・・くっ・・」
あおられて、2・3歩よろけたが、すぐ身体を起こしてポケットから出したハンカチで口元を押さえると、躊躇う事無く一気に黒煙の中に飛び込んで行った。
背後から、人々のざわめき、怒号が飛び交っている。
「大変だ、女の子が入って行ってしまった・・・」
「だれかバケツを持ってこい!」
「中に人が! 憲兵を呼んで来るんだ!」
「誰か火を、火を消してちょうだい! このままじゃ隣の私の家が燃えてしまうわ!」
更に見物客が集まり、いよいよ付近が騒がしくなって来た。
しかしその外の喧騒も、少女には聞こえる筈は無かった。
彼女の耳に聞こえてくるのは、館の奥から聞こえる火炎の轟轟とうねる激しい音と鈍い地響き。
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