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美しいトルマリンの瞳がじっと見上げる塔の時計は、既に9時を回っていた。
どう考えても、彼女のような齢若い少女が一人で出歩く様な時間では無い。
時折、彼女の近くまで見兼ねたオルポ(警察官)が向かって行くのだが、一定の距離まで近づくと皆、踵を返して立ち去って行くのだ。
オルポはある一定の方角に視線が向くと、飛び上がる様に身体をビクンと揺らし、そのまま素早く退散してしまう。
彼女はその光景をもう既に三度は見ていた。
そんな彼等が、退散する直前に何に目を止めたのかも彼女は知っていた。
しかし、幸か不幸かそのお陰で彼女は誰にも邪魔される事無く、一時間程前からずっとそこに立ちつくしたままで居られたのだった。
先程まで止んでいた雪が、また静かにゆっくりと降り始めた。
雪は少女にも容赦なく降り積もる。
髪に、肩に降り積もった雪を、水晶の様に白く細長い指で払い除けると、少女は大きく溜息を一つつき、コートのポケットからスカーフを取り出して頭巾のように頭に被り、風に飛ばされぬ様顎の下でキュッと結んだ。
彼女はちらと、その視線を薄暗いはす向かいの路地裏に向けた。
スッと黒い影が動いた様な気がした。
しかし彼女は・・それを気に留めるような素振りは見せなかった。
その細く小さい脚は、南の住宅街の方に向かって歩き始めた。
彼女の足取りに迷いは無かった。
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