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母様からの電話はいつも急だ。
「どうしても話しておきたい事があるの。貴方の人生に係わる、とても大事な話よ。
必ず8時に時計塔の下の噴水前に来て頂戴。必ずよ。もし私が来なかったら・・お父様の別宅にそのまま向かいなさい」
それだけを告げるとすぐに電話は切れた。
恐らく盗聴を恐れての事だと思う。
今更そんな事が何の意味も持たないと解っていても、それでもやはり身構えてしまうのだろう。
最近は身辺で不審な事柄が何度も続いていた。
父が、ナチスからの再三にわたる、執拗な勧誘を撥ねつけてからというもの、世間の風当たりがあからさまに厳しくなった。
真っ先に、父と共同経営する二つの診療所の患者が激減した。
往診も度々断られる様になった。
先日も、父の代から何十年と付き合ってきた患者の一人が診療所を訪れ、心の底から・・・本当に申し訳無さそうに往診を止めて欲しいとお願いをして来た。
幼い頃から心臓を患って来たその女性は、孫がナチス親衛隊に入隊した為「医者を替えてくれ、そうで無ければ逆に我々が目を付けられてしまう」と身内から強く言われたのだと、涙ながらに話し・・名残惜しそうに立ち去っていった。
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