Begegnung

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 そしてこの数カ月は特に、何者かに診療所を荒らされたり、窓ガラスを割られたりなどと云った悪質な嫌がらせも頻繁に起こっていた。  ところが、それを警察に通報しても全く取り合ってすら貰えない。  警察組織もナチスが掌握している為に、ナチスに仇なしているとされている人間など、彼等には守る義務すらないのだ。  診療所の修繕ですら、大工たちがとばっちりを嫌がって修理をして貰えずにいる。  今も壁などは穴の開いたままの状態だ。  先日はその穴から、大きなドブネズミが数匹診療所に入り込んで来てパニックになった。  なので今は仕方なく、割れたガラス窓や壁などに適当な板や厚紙をはめ込んで凌いでいる状態だ。  白く美しい石壁の外観と、内部全てが整然とし、多くの患者を受け容れていた筈の瀟洒な診療所は、今や見る影もない悲惨な状態となり果ててていた。  しかし、このような惨い扱いを受けるなど・・自分はともかく、幼い頃から身分の高い貴族として生きて来た父などにとっては、それこそ耐え難い屈辱なのではないだろうか。  自分の家、ミュラー家は辺境伯の爵位を頂く由緒正しいザクセンの貴族だ。  古より皇帝に仕え、代々ザクセンの辺境の地をスラブ人らから守りながら、有事の際には軍人・軍医として、平和な時代には腕の良い宮廷医師として代々の皇帝に忠実に仕えて来た。     
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