間諜と謀略の狭間で

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 「何で・・・・ッ!」  途方に暮れた。  何故かふと、霧島の顔を思い出してしまった。  その瞬間、宇佐ははっと我に返った。  正隆は未だバンバンと窓を叩いている。  狂ったように暴れる正隆のその頬を、運転席の男が思い切り殴り倒した。  正隆はそのままシートに沈み込み、動かなくなった。  男はもう一度宇佐に向かって、唇の動きで「そのまま立ち去れ」と伝え、拳銃の撃鉄を下げ、ピクリとも動かない正隆のこめかみに向かって銃口を擦り付けた。  「・・・・くそっ・・・」  宇佐はバイクを立て直すと、そのままその場を離れた。  あんな状態の正隆を置いて去る事に対して後ろ髪は引かれたが、今日の任務はやはり正隆の救出では無いのだ。  それに状況から見て、かなり複雑な事情がありそうだ。  総合的にその場の状況を判断して、今すぐの救出は不可能な上、今行動を起こす事は余計に事態を複雑にしかねない、と判断しての事だった。  サイドミラーでその車のナンバープレート・車種・形状を見て暗記し、後で隆一郎に報告する事にした。  (すまない、今はお前に構っていられないんだ)  宇佐にとっても、それは苦渋の決断だった。     
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