間諜と謀略の狭間で

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 「セラーズ曹長・・ああ、此処では階級は付けるな。何処で誰が聞いてるか解りゃしねえからな。アイツにはさっき其処の倉庫の裏で会った。恐らくこの国の工作員だろう。手帳をちらっと背後から見たが・・かなり色々調べ上げていたな。あれだけ使えるなら、俺の部下にスカウトしたい位だ。そして、あのガキ・・ミュラー博士を知っている様だ」  「俺たちに与えられたミッション、“ヘヴンズゲイト”の、最重要人物・・ですか」  どうやら青年は日本人では無いらしい。  そして彼も見た目通りの年齢では無いらしい。  「しっかし、少佐が誰かを褒めるなんて・・。あのガキ、そんな凄い奴ですか?」  忌々しいと云った面持ちで、青年は倉庫横の木箱を伝って器用に上官の居る所までひょいひょいと降りて行った。  「だから階級を言うなと云ってるだろうが。此処では“クレイヴ・ロックハート”でいい。・・あれだけ練度の高い奴は、海軍でもそうそういねえよ。ああ云う連中は、普段は牙を上手に仕舞ってるからな。一見只の可愛気の無いガキに見えるが、見た目だけが全てじゃねえって事だ」  「フウン・・・まさか、浮気したりはしないでしょうね? 俺が目の前に居るのに。・・・あいつ、日本人にしては見た目もいいし、顔はなかなかキレイだったし」  木箱から飛び降り、上官の横に立ち・・ちらりと横目に見つめる。  その勘繰った視線に、ブラックマンは笑った。  「ハッ・・馬鹿だな。アイツには振られたよ、『デートはお断り』だとさ。おまけにあのガキ、俺をおっさん扱いしやがった」     
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