間諜と謀略の狭間で

195/649
前へ
/1538ページ
次へ
 そんな彼の仕事は、見た目に全く相反していた。  彼は、上海を拠点にする青幇の一派の首領だ。  くだけて言えば、ギャングやマフィアの様なアウトローな裏稼業の主が彼の生業だ。  主に阿片や武器、人などの密輸・売買や賭博、売春宿の元締めなど。  ありとあらゆる裏のビジネスと情報に精通した人物・・それが彼、葉継科だ。  だが、そんな男と日本の軍人である宇佐達と何故接点が有るのか。  実は継科の父、葉志良と隆一郎の祖父草壁敬重とはある種の親交が有り、その繋がりで南部や隆一郎達とも未だに交流が続いていた。  もっと正確に言えば、志良と敬重はビジネスパートナーである以上に、恋人同士だった期間が存在した。  だがそれは周囲も彼等自身も隠し通して来た事で、一切公にはされてはいない。  何故なら、日中戦争真っ只中の今、あからさまに日本の軍人である彼等と親交を深めていては、反感を持つ中国の同胞からどんな仕打ちを受けるか解りはしない。  実際に中国国内では、日本人と親交の深かった隣人を、近隣の人間が寄ってたかって殺害してしまうと云う事件が頻発していたのだ。     
/1538ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加