間諜と謀略の狭間で

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 「日本人は“侵略者”であり“敵”である」・・その鉄則から外れた者には、どんな形であれ、罪を贖わせると云うのが当然、という潮流に当時はなっていた。  それだけが直接の理由だった訳ではないが、そう云う事も一因で継科の父志良は殺されたのだ。  だから継科達は、互いの接触には極力神経を使っていた。  顧客である中国人に、日本人と親交があると万が一目を付けられると、デリケートな裏の商売が成り立たなくなってしまう上、最悪他の組織に自分の組織を喰われてしまう恐れだってあるのだ。  今回の密会も、継科がわざわざ日本に場所を移してのものであった。  その歓談の場へ、国峻に連れられた宇佐がようやく合流して来た。  「継科、やはり宇佐は埠頭であの客船に捕まっていた」  笑いながら国峻が継科に報告すると、継科の隣の席に腰かけた。  そして国峻と継科は、挨拶でもするかの様に・・ごく自然に口づけをした。  二人が恋人同士なのは、この場に居る全員が知っているので、別段驚く事では無い。  ちなみに継科は男性、国峻には妻と二歳になる男の子が本国に居る。  そして二人共、普通に中国語で会話しているが、この部屋で中国語の話せない者は居ない。  彼等は皆、継科達に合わせて普通に中国語で歓談していた。     
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