Begegnung

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 しかし一介の医師だからとて、平民と云う訳でも身分が低いと云う訳でも無い。  辺境伯はそもそも、古より守護して来たその広大な土地を我が領地とし、その役職の為諸侯より大きな権限を与えられて来ていた。  身分も高く、称号としては侯爵とほぼ同格、時には公爵にも匹敵する程の強大な権力を保有していたのだ。  その為、各地の称号保有者はいち早く大公、選帝侯などに昇格して一国の主となってしまい、今では辺境伯を拝領する貴族は当家のみになってしまっていた。  (・・まあ、当家の主は元々権力に余り関心の無い者が代々続いたと云う事なのだろう)  末裔である自分も、その辺は妙に納得がいく。  後継者である自分も専ら、医術や薬学、生理学などの研究職や医療活動にしか興味は無い。  貴族の主催する金に飽かしたパーティーなどには碌に顔も出した事は無いし、余程の理由の無い限り、大抵の出事は断って来た。  だから、貴族の知己は自分の患者以外は当然居ないし、地元の名士や政治家など、碌に顔すら覚えていない。  そもそも金や権力など、自分から一番遠い物だと思って今まで生きて来た位だ。  それでも、”変わり者の貴族”と呼ばれる程度で今までなら済まされてきたのだが。     
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