Begegnung

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 以前なら、身分の高い貴族である筈の我等には、どんな場であれ最大限の敬意が払われた事だろう。  だが、それはもう過去の話だ。  ナチスがそれまでの貴族制度を廃止してしまったのだ。  お陰で今は、自分も当主であった父も、ただ一民間人としての立場しかない。  何の力も持たなくなった自分達から、次々人は離れて行った。  父の城の使用人も、このアウクスブルグの屋敷の使用人達も、ナチスの弾圧を恐れて次々と辞め、逃げ出してしまった。  少し前に、自分の診療所を手伝っていた者達にも皆暇を出した。  これ以上は彼等に迷惑が掛かるとの考えからだった。  それに、元来自身の出生が特殊だった為、貴族という高い身分の割に他人にかしずかれるのが大の苦手だ。  そもそも、大概の事は一人で出来る様にと幼少期から乳母に厳しく育てられた為、むしろ一人の方が何かと気が楽なのだ。  だから、普段の生活にはそれ程不自由はしてはいない。  今は田舎の領地通いからも解放された事で、逆に便利になった位だ。  以前は、余り領地を空ける事が出来ず、所用が出来る度に父と二人、数日をかけて度々とんぼ返りをしていたのだが。  城は今もザクセンに確かにあるが、父も自分も今の生活の基盤は既にミュンヘンとアウクスブルグにある。     
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