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父はアウクスブルグに、自分はミュンヘンにそれぞれ診療所と別邸をそれぞれ持っている。
それもまた、ナチスが貴族制度を廃止した為、わざわざ無理をして生活の基盤を城のある辺鄙な山奥に置く必要も無くなったからだ。
お陰で、領地に縛られる事が無くなった。
そもそも、古より主から拝領して来た領地はドイツ東部、ザクセンの山奥にある。
無論、城の周りには商人が住まい、城砦に囲まれた小さな都市が存在するが、ただでさえこじんまりとした山奥の町が、近年の若者の都市への流出で更に寂れてしまっていた。
・・大して見る物も目ぼしい産業も無い山間の旧い街なぞ、何処もこんな物だろう。
幼少期をこの田舎の城で過ごす事の無かった自分にとって、幾度も足を運んだ事の無い山奥の領地に、急に愛着を感じろと云う方がなまじ酷に感じられた位だ。
途方もない時間を掛けてまで、あの山奥の城にいちいち通わなくても良くなった事は、無駄に時間を浪費する事に耐えられなかった自分にとって、幸運としか言い様の無い出来事だったのだ。
其処だけはナチスに感謝するべきだろう。
・・・だからと云って、絶対にしたくはないが。
だが、父は領地の領民に「領主様に会えないのは淋しい」と度々愚痴られていると聞いた事があった。
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