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それだけ皆に慕われて来たと云う事だろう。
父の人柄、あの温厚さと誠実さなら頷ける話だ。
だが本来、医者が患者を診るのなら、街の方が良いに決まっているのだ。
それまでは逆に、はるばる街から重い病気をおして、山奥の城まで噂を聞き付けた患者が命懸けで通って来ていた。
彼等は口々に、
「こんな腕の良い医者が田舎の城に引っ込んで居るのは勿体無い」
「折角の名医なのに来るのが大変過ぎる、街に診療所を作ってくれればいいのに」
「こんな辺鄙な所にいちいち通っていたら、治る物も治らない、病気が増える」
と零しながらも、皆病気をそれなりに治癒させ、すこぶる健康になり去って行った。
そして・・それまでは爵位と領地、それに付帯する責務が存在した。
だから、城や領地をおいそれとは離れる事が出来なかった。
だが、晴れて一般人となった今は、そのしがらみも無い。
今は、父も自分も大きく古い田舎の城を離れ、それぞれこじんまりとした街中の別宅で暮らす事が出来ているのだった。
だが、そこにも頻繁に不審な男達がうろつくようになっていた。
現に今も、黒いトレンチコートを羽織った二人組が10メートルほど離れて自分を監視しながら尾行している。
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