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「もう少し早くにみぃと会えてたら俺、みぃと結婚してたと思う」
「馬鹿じゃないの。ありえないわよ」
真剣な表情で目も逸らさず、その声はとてもリアルティがあって思わず私もと言いかけそうになるのを堪えて紡ぎだしたその声は自分が思っていた以上に冷たい声になった。
電車がホームに入ってきて立ち上がった。一緒に乗り込んだけど発車ベルがなり終わって扉が閉まる前にもう一度ホームに降りた私は、バイバイと手を振って彼を見送った。
おい、何やってんだよと口パクで言ってるのが見えたから私も口パクで返事をした。
「さよなら。幸せになってね」
彼を乗せた電車はホームを出発して
やがて見えなくなった。
彼のことを忘れたことなどなかった。
いつまでも私の心に居座り続ける彼を
追い出すことなど私には出来なくて
今でも忘れられない馬鹿な私は
幸せそうな彼を見て自ら手放した
過去の自分をただ嘲笑った。
忘れたいけど、忘れたくないもの。
悲しいけれどそれが私と貴方との
思い出なのよと言い聞かせて
ホームに入ってきた電車に乗り込んだ。
新たなスタートをきれるようにと
だけど
優しい思い出の中で
二人とも幸せでいましょう。
ありがとうと感謝を込めて。
愛していました。
届かない愛の言葉を
電車の発車ベルが消してくれた。
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