第199回   イージェンと海獣王《バレンヌデロイ》(2)

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 セレンは、近くには見当たらなかった。ここは、医療班区のオペレェイション室だった。ディムベスが手術室への階段を下りようとした。カサンが、よろよろしながら近寄ろうとした。 「もうやめてくれ!」  それを警備員ふたりが両脇から押さえた。カサンが両脇を押さえる警備員を交互に見た。 「やめさせてくれ!頼む!これ以上ひどいことさせないでくれ!」  必死に頼むカサンを見て、さすがに気まずくなったのか警備員が眉を寄せて顔を見合わせた。  そのとき、全施設内に響き渡る緊急警報が鳴った。 「なんだ!?」  ディムベスが降りかけた階段を戻ってきてボォゥドの釦を叩いた。 『緊急警報、第二タービンゲェィト破損、至急調査せよ』  抑揚のない女の声が聞こえてきた。 深海マランリゥムは深層循環流によってタービンを回転させて動力源を得ているが、タービンは三基あり、常に二基動いていて、一基は点検のために休止させている。その休止している第二タービンの水門が破損したというのだ。タービンのある区画と居住区や研究区などのある中央島との間には、気圧室があるので、水が入ってくることはないが、調査には潜水服を着用して向かわなければならない。  小箱で中央管制棟に連絡した。 「ディムベスだ、どうしたんだ、破損の原因は」  報告を聞いていたディムベスの顔が青ざめた。 「なんだと…そんなばかな」  コントロォルパネルには、五台のモニタァが埋め込まれている。 「映像をこちらに回せ」  五台のモニタァが次々に明るくなって所内の各所の映像が映し出されていった。そのひとつを見たディムベスが眼を剥いた。 「なんだ、これは…」  モニタァに影が横切った。次のキャメラが正面からとらえた。灰緑の布を被った金色の髪のまだ十二、三歳くらいの少年が、高速で通路を飛んでいた。 「こ、これは…」  絶句するディムベスの後ろから見ていたカサンがつぶやいた。 「魔導師…」  聞きとがめたディムベスが振り返った。 「魔導師がやってきた。ここはもう終わりだ、所長」  振り返ったディムベスの顔が険しく歪んだ。
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