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エアリアが止めようとしたが、叩き払われた。
「ぐうぅ!」
アートランが苦しくて、イージェンの手を掴んではがそうともがいた。
「どうしてセレンが腹を壊したんだ!あれだけ、注意してやったのに、言われたとおりやらなかったんだろう!」
首に食い込んだ指が赤く輝いた。
「ぐわぁあっ!」
じゅわぁっと皮膚が焼け焦げ、煙が出た。
「やりすぎだよっ!」
リィイヴがイージェンの腕に飛びついた。アヴィオスやエアリアもしがみついた。
「やめてください、師匠!」
「イージェン殿、命は助けてやってくれ!」
肉が焼ける異臭がしてきた。ヴァンが震えて甲板につっぷした。
「おまえなんかにセレンを渡したくなかった、でも、あいつがおまえと行きたいというから!」
甲板に叩きつけた。首の周りにくっきりと手の痕が赤くただれてついていた。仰向けになって、見下ろすイージェンを見上げて震えた。
「いいか、選ぶのはセレンだ、俺かおまえか、どっちを選んだとしても、それはセレンが選んだことだ、俺たちはそれを受け入れるしかないんだ!」
ヒトの心の向いている先を無理に変えることなどできはしない。時間を掛けてわかってもらうしかない、それでも心に響かないこともある。だが、自分を納得させるためにも、そうするしかないのだ。
アートランが眼をつぶった。涙が頬を流れていく。
「そんなの、そんなの、わかってる…わかってるよっ…」
アヴィオスがアートランの髪を撫でた。
「アートラン、イージェン殿に助けてもらおう」
アートランがようやくうなずいた。
カサンは、眼が覚めたとき、まさか、死後の世界というものがあったのかと信じられない思いで、うすぼんやりと見上げていた。
…ああ、でも、魔導師がいるんだからなぁ…
そんなこともあるのかもと思っていると、しだいに回りがはっきりと見えてきた。
「眼が覚めたか」
冷たい声が現実に引き戻した。
「ディムベス所長…」
連れ戻されたのだとわかった。あのまま、眠るように死んでしまったほうがよかったかもしれない。ぐっと唇を噛んだ。
「おまえがこんな思い切ったことをするとはな、しかも、シリィの子どものために」
どちらかといえば、慎重で臆病な性質だと自分でも思うし、周りにも思われていた。はっと気が付いて、身体を起こした。
「セレンは!」
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