第199回   イージェンと海獣王《バレンヌデロイ》(2)

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 エアリアが止めようとしたが、叩き払われた。 「ぐうぅ!」  アートランが苦しくて、イージェンの手を掴んではがそうともがいた。 「どうしてセレンが腹を壊したんだ!あれだけ、注意してやったのに、言われたとおりやらなかったんだろう!」  首に食い込んだ指が赤く輝いた。 「ぐわぁあっ!」  じゅわぁっと皮膚が焼け焦げ、煙が出た。 「やりすぎだよっ!」  リィイヴがイージェンの腕に飛びついた。アヴィオスやエアリアもしがみついた。 「やめてください、師匠(せんせい)!」 「イージェン殿、命は助けてやってくれ!」  肉が焼ける異臭がしてきた。ヴァンが震えて甲板につっぷした。 「おまえなんかにセレンを渡したくなかった、でも、あいつがおまえと行きたいというから!」  甲板に叩きつけた。首の周りにくっきりと手の痕が赤くただれてついていた。仰向けになって、見下ろすイージェンを見上げて震えた。 「いいか、選ぶのはセレンだ、俺かおまえか、どっちを選んだとしても、それはセレンが選んだことだ、俺たちはそれを受け入れるしかないんだ!」  ヒトの心の向いている先を無理に変えることなどできはしない。時間を掛けてわかってもらうしかない、それでも心に響かないこともある。だが、自分を納得させるためにも、そうするしかないのだ。  アートランが眼をつぶった。涙が頬を流れていく。 「そんなの、そんなの、わかってる…わかってるよっ…」  アヴィオスがアートランの髪を撫でた。 「アートラン、イージェン殿に助けてもらおう」  アートランがようやくうなずいた。  カサンは、眼が覚めたとき、まさか、死後の世界というものがあったのかと信じられない思いで、うすぼんやりと見上げていた。 …ああ、でも、魔導師がいるんだからなぁ…  そんなこともあるのかもと思っていると、しだいに回りがはっきりと見えてきた。 「眼が覚めたか」  冷たい声が現実に引き戻した。 「ディムベス所長…」  連れ戻されたのだとわかった。あのまま、眠るように死んでしまったほうがよかったかもしれない。ぐっと唇を噛んだ。 「おまえがこんな思い切ったことをするとはな、しかも、シリィの子どものために」  どちらかといえば、慎重で臆病な性質だと自分でも思うし、周りにも思われていた。はっと気が付いて、身体を起こした。 「セレンは!」
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