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「所長、なにか別のものも!」
警備員の声にふたたびモニタァに向き直った。さきほどの少年とは別にふたり、映っていた。やはり通路の中を飛んでいる。ひとりは灰緑の外套を着ていて、その腕に抱えられているもうひとりは。
「あれは、リィイヴ?」
カサンが驚いて眼を激しくしばたたいた。たしか死んだと聞かされたのに。ディムベスがふふっと不気味に笑った。
「リィイヴ…」
ディムベスが舌なめずりした。
「わたしが壊してやったリィイヴだ」
ディムベスが、警備員のふたりに命じた。
「ふたりを逃すな、わたしは中央管制棟に行く」
さっと出ていった。警備員のふたりは戸惑いながら、オゥトマチクを構えた。カサンがふたりを見回した。
「早く逃げないと、ここもアーレのようになるぞ」
警備員たちが戸惑って顔を見合わせた。
時は遡り、『空の船』がまだ、レアンの軍港沖にいた頃。駐留軍将軍に、しばらく南方海岸を離れることを伝え、極南列島に向け、出航した。すぐに空中に飛び上がり、速度を上げた。
イージェンは、みんなに食堂で夕飯を食べるよう言いつけた。
「食べられるときに食べておけ」
アートランの首の火傷はひどく、皮が焼け溶け、肉がただれていた。エアリアが自分の部屋に連れて行って、傷薬を吹きつけ、手のひらに魔力を集中させて光を当てた。少し赤みが消えたように思えたが、ただれは治らなかった。熱が出ないように解熱の薬を飲ませ、自分の胴着を貸してやった。
「ちゃんと食べて、着くまで寝て、身体の力を戻しなさいね」
シチューと薄焼きパンを持ってきた。渡されて、術を掛けながらシチューとパンを食べた。エアリアが、イージェンの精錬した茶をゆっくりと丁寧に入れた。アートランが、茶碗を受け取って、立ち昇る湯気を見つめた。
「姉さん、殿下と別れたんだ」
どうして、この子は自分を姉と呼ぶのだろうか。アリュカのことは母とは呼ばないのに。
「ええ、師匠にも反対されたし、それに四の大陸から王女様が輿入れされるって」
また嫌なことを言われるのかしら…お別れしてすぐに、別の男に惹かれてるって…
だが、アートランは何も言わずに茶を何回か吹き冷ましながら飲んだ。
「力が…身体に広がっていく感じだな…」
エアリアが、ふと気になって尋ねた。
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