第2回   セレンと仮面の魔導師(2)

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 十日程経った頃、一羽の鷹らしき鳥が飛んできて、小屋の傍に立つ大きな柏の木の枝に止まった。ヴィルトが口笛を吹くと、降りてきて、差し出した腕に止まった。足に筒のようなものを付けていて、中に細く丸めた紙が出てきた。手紙のようだった。読み終えるとすぐに煙のように消えた。これが術なのかと、セレンが目を丸くした。 「これは困ったな」  ヴィルトがセレンを見下ろした。しばし考えていたが、やがて、膝を付き、セレンの肩に手を置いた。 「セレン、二、三日、リュールと留守番できるか」  セレンは、この深い森の中に置き去りにされるのかと、不安で顔を泣き崩した。 「心配しなくても、すぐに帰ってくるし、リュールが守ってくれる」  セレンは、言いつけを守りいい子にしていなくては捨てられてしまうと思い、首を縦に振った。  それからの二、三日はまるで一年にも二年にも思えるほど長く感じられた。三日目の夕方、セレンはリュールと一緒に小屋の前に経ち、待ちつづけていた。日が落ち、星も見えない中、暗闇に包まれた森をずっと見つめていた。しかし、ヴィルトは帰ってこなかった。  今日こそはと、待ちつづけて、七日が経った。地下の貯蔵庫には食料がふんだんにあり、水も井戸があって、不自由はしなかった。しかし、不安は募るばかりだった。 「ねぇ、リュール、師匠はどうしたのかな。用事が終わらないのかな、雪でも降って戻れないのかな…」  リュールに話し掛けているうちに、涙が止まらなくなった。 「師匠…早く帰ってきて…」  さびしくて、おそろしくてたまらなかった。  さらに七日が経った。ついに、待ちきれなくなった。リュールと自分の分のパンを袋に入れて、筒を水で満たし、小屋を出た。覚えている限りの記憶を手繰り、街道へと向かった。師匠がどこに行ったのか知らなかったが、街道との入り口まで行って、そこで待っていよう。ここにいるよりも少しでも早く会える。その思いで深く暗い森を進んだ。  雪の少ない場所ではあったが、時折白いものがちらつき、寒さが増してくる。リュールを胸に抱き、暖め合いながら、進んだ。  馬に乗ってニ日の道のりも幼い足では、五日掛かった。とっくにパンはなくなっていた。あの洞以外は、雨露を凌ぐような場所もなかったし、獣除けの術もわからなかったが、リュールがいてくれたので、心強かった。
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