第2回   セレンと仮面の魔導師(2)

4/6

294人が本棚に入れています
本棚に追加
/1233ページ
 とっくにパンは底を尽き、空腹と疲れで足もよろけてきたころ、街道に出た。気が抜けて、端に座り込んだ。リュールを胸に抱き、膝に顔を伏せていた。何度か人や馬車、馬が行き来するのがわかったが、しばらく顔も上げずに休んでいた。馬が近くまで寄ってきた。もしや師匠ではと顔を上げた。 「あ…」  セレンは、恐ろしさで腰を抜かし、動けなくなった。馬から降りてきた者がセレンの髪を掴んだ。 「これは驚いた、こんなところで会うとはな」  黒布の男だった。抱いていたリュールが吠えた。男がリュールの耳を掴んで地面に叩き付けた。 「ギャン!」  リュールが悲鳴を上げた。セレンが寄ろうとするのを男が腕を掴んだ。 「おい、あのいかさま師はどうしたんだ。もう飽きられて捨てられたのか」  セレンは首を振った。 「師匠は出かけただけです。帰りを待っているんです」 自分にも言い聞かせるように向きになって言った。鞭の男も寄ってきた。 「頭、もしかして、あいつの家にもっとお宝があるんじゃ」  黒布は、馬車と御者に先に王都の定宿に行くよう言って、鞭と二人でセレンを追い立てた。リュールはぐったりしていたが、筒の水を飲ませてやると元気が出てきた。 「ずいぶんと奥なんだな」  途中でセレンの足が遅いので嫌がるのを無理やり馬に乗せた黒布が苛立った。鞭の男はかなりの健脚らしく、子供たちを追い立てていたときとは違って、走っているような速度で馬に続いていた。小屋に着いたとき、その粗末な造りに呆れた様子だったが、中に入って、家捜しを始めると、目の色が変わった。居間の棚の中から値打ち物の装飾品や金貨などが出てきた。 「こりゃあ、相当なワルだな。たんまりと溜め込んでやがる」  黒布が寝台の下にあった木箱を引っ張り出して、鍵を壊した。 「すげぇ」  鞭の男が驚いて手を入れた。木箱一杯の金貨と銀貨、宝石の原石が輝いていた。両側に取っ手がついており、ふたりで持ち上げた。かなりの重量だった。居間で一度下ろした。 「頭、荷車かなにかでないと運べねぇぜ」  箱から出して袋にでも詰めることにした。敷布を裂いて風呂敷にして包んでいく。縄で縛り、繋げていく。黒布が居間の隅で震えているセレンを引っ張り出した。リュールがその腕に噛み付いた。 「ちっ!」  黒布がリュールを振り払い、短剣を抜いた。リュールを斬ろうとしたが、すばやく逃れた。
/1233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

294人が本棚に入れています
本棚に追加