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馬に袋を括り付けに行った鞭の男が怒鳴ってた。
「頭!帰ってきやがったぜ!!」
黒布がセレンの腕を掴んで引きずって外に出た。栗毛の馬の側にヴィルトが立っていた。セレンはその姿を見て、泣き叫んだ。
「師匠!」
ヴィルトがゆっくりと歩み寄ってきた。
「よくここがわかったな」
黒布が睨み付けた。
「この小娘が街道でおまえの帰りを待ってたんでな、ここまで案内させたんだ」
ヴィルトの足が止まった。
「この森をひとりで…」
セレンが顔を伏せて泣いた。
「ごめんなさ…い、心配で…ごめんなさい」
言いつけを守らなかった。もう捨てられてしまうと思った。
「すぐに帰ってこられず、すまなかった」
ヴィルトがふたたび足を進め始めた。鞭の男は鉈のような打ち物を構えた。黒布が手の短剣をセレンの喉に突きつけた。
「とまれ」
ヴィルトは止まった。黒布が少し下がった。
「金も宝石も好きなだけもっていけばいい。だが、その子は傷つけるな」
黒布が怒りについに罵声を上げた。
「気取りやがって!そんなにこの小娘が大事か!」
黒布の手が動いた。同時にヴィルトも動いたが、間に合わなかった。短剣がセレンの喉を刺し貫いた。叫びを上げることもできず、セレンは血を噴出して事切れた。
「セレン!」
「ざまみろ、いかさまヤロウ、せっかく助けたのに、無駄だったな!死体でも抱きやがれ!」
セレンのなきがらをヴィルトの足元に投げつけた。鞭の男が大鉈を振り下ろしてきた。ヴィルトがその方を向いて、仮面に手をやった。
「うっわわわわあっ!」
鞭の男が凄まじい勢いで霧のようになって、仮面を取った中に吸い込まれていった。
「なっ、なんだ!?」
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