第2回   セレンと仮面の魔導師(2)

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ヴィルトが仮面を取ったまま、黒布の方を向いた。 「お、おまえ、それは!?」  驚愕のあまり、腰を抜かしていた。諤諤と顎を動かしているだけになった黒布の男にヴィルトが言った。 「現し世にいてはならない存在」  神秘的なまでに澄んだ高い声が響く。黒布の体が霧のように分解して仮面を取った中に吸い込まれていった。  仮面を付け、すぐに頭陀袋の木箱の中から茶の小瓶を出して、中の靄をセレンの口に注いだ。右の灰色の手袋を取って、セレンの喉元に向けた。  ヴォーンという低いうなりのような声を発すると、喉元が白く発光した。傷口が見る見るうちに塞がり、回りについた血の汚れ以外はきれいになっていた。やがて、セレンが青い瞳を晒した。覗き込んでいる仮面を見て、震えた。 「師匠(せんせい)…ぼく、生きてるの…?」  ヴィルトが抱きしめた。 「ああ、生きているよ」  抱き上げて小屋に向かう。足元をリュールが心配そうに巡っていた。セレンが心配そうに首を回したのに気づいた。 「あの男たちは追い払った。もう二度と現れない」  小屋に入って、寝台に寝かせ、手袋の手でセレンの額の髪に触れた。 「今度から出かけるときは、君もリュールも連れて行くから」  セレンがうれしげにヴィルトの愛撫を受けた。
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