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セレンが黙っていると、リュールがセレンの膝の上に飛び乗って体を丸めて甘えた。少年は、その様子を優しそうな目で見た。
「リュールは友達でないと慣れ付かない。俺もそなたもリュールの友達、ということは、俺とそなたも友達同士ということだな」
そう言って屈託なく笑った。
「俺はラウドだ。そなたの名は?」
ラウドはセレンの膝の上で丸くなっているリュールの頭を撫でた。
「…セレンです…」
ようやく声を搾り出した。
「仮面の従者か?」
こんなに幼い者を従者にすることはないが、一応尋ねた。セレンはヴィルトに言われたように返事した。
「…弟子…です」
ラウドも魔導師たちと同じように目を丸くして驚いた。しかし、急に笑い出した。
「そうか、そなた、仮面の弟子か!」
そして、ラウドはリュールを右の腕に抱え、左の手でセレンの手を掴んで歩き出した。
「あ、あの!」
「どうせ仮面は、埒もない会議でそなたたちをほったらかしにする。俺のところで食事でもしよう」
宿舎からいくつかの庭園を横切って、白い小花の垣根に囲まれたテラスに着いた。テラスから中に入り、大きな丸いテーブルを囲んでいる椅子のひとつにセレンを座らせた。リュールを膝の上に置いて、手を叩いて人を呼び、食卓を整えるよう命じた。たちまち卓上に様々な料理が並んだ。温かいスープに木鉢に盛りだくさんの野菜、大皿には何種類かの肉の燻製、篭からはみ出んばかりの白パンもあった。もちろん、初めて見るようなものばかりである。ラウドが骨付き肉の燻製を小さくちぎってリュールに与えた。リュールがおいしそうに食べている様子をじっと見ていると、ラウドが食べるようすすめた。そろそろと手を卓上のスプーンに伸ばし食べ始めた。どれもこれも信じられないくらい美味しかった。しかし、途中で食べるのをやめた。ヴィルトのところでの食事ですらもったいないほど贅沢だと思っていた。故郷の家族はきちんと食べているのだろうか、自分ばかりおなかいっぱいになってよいのだろうかといつも心を痛めていた。ラウドが食べるのをやめたことに気づいた。
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