第3回   セレンと紅《くれない》の王子(1)

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「口に合わないのか?」  セレンが首を振った。その時、年若い従者が失礼ながらと入ってきて、来客があることを告げた。承知するとすぐに裾の長い白い上着を着た小柄な男が入ってきた。灰色の髪は火にでも炙られたようにちりちりと縮れていて、青白い顔色で挨拶した。 「殿下、先日はありがとうございました」  ラウドが席を立った。膝からリュールが零れ落ち、その男に向かって激しく吠えた。男はいらだたしげな顔で、足元で噛み付かんばかりに吠え立てるリュールに手で追い払う仕草をした。ラウドが苦笑した。 「教授殿は嫌われたようだ」  セレンがリュールに駆け寄り抱きかかえた。教授と呼ばれた男がセレンを睨み付けた。 「修理は済んだのか?」  ラウドが教授に尋ねた。教授はにこやかな顔を作って頷いた。 「はい。ラボも移動が済みまして、ご紹介いただいた南の平地に停留しております」  是非また来訪をと言い添えて、教授は帰った。ラウドが葡萄の実を摘んで口に運んだ。 「セレン、仮面は明日も忙しいだろうから、俺と出かけよう」  従者を呼びつけ、残した料理をもたせ、宿舎まで送るように言いつけ、出て行った。従者が持ち帰れるように包んでくれ、宿舎まで送ってくれた。帰りはいくつもの広間や延々と続く回廊を通り、行きの何倍もかかって戻った。  王都や王室のことはほとんど聞こえてこない地方の出であっても、当代の王や王太子の名前くらいは知っている。セレンはヴィルトに話して、あの森の小屋に戻してもらおうと思った。しかし、ヴィルトはその夜戻らなかった。
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