第5回   セレンと紅《くれない》の王子(3)

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怯え震えるセレンの背中をさすりながら、ラウドが銀の箱・トレイルの傍まで馬を進めた。トレイルの近くに大きなタープが張ってあり、その下に昨日訪ねて着た白衣の教授がいた。まわりにも同じような白衣や灰色の上下が繋がった服を着たものたちが何人かいて、馬が近づいたことに気づいてタープの外に出てきた。 「殿下!早速のお運び、恐縮です」  教授が手を胸に当ててお辞儀した。馬から下りたラウドが頷いて、トレイルを見上げた。セレンを降ろしてやり、馬の手綱をタープのポールに括り付けた。周りのものたちもみな顔色が悪く、いじわるい目つきでセレンたちを見ていた。リュールはずっと唸り声を上げていた。ラウドとセレンは教授の案内で、トレイルの側面から出ている傾斜板から中に入った。それは軍船の中に似ていた。もちろん、セレンは軍船はおろか普通の船すら川を渡る小舟程度しか知らなかったので、そのように比べることもできないのだが。狭い廊下は硬い金属板で囲われており、ところどころに灯火とは違う丸い明かりが下がっていた。梯子を何回か登り、おおむね三階分ほどの高さを上ったところで教授が頭上の蓋のようなものを開けた。セレンは、なんとかラウドとはぐれまいと付いて来ていた。リュールはラウドの外套のフードの中に入っておとなしくしていた。真上を登っていたラウドの体が明るいところに上っていった。セレンも登り切った。日の光の下に出たらしくまぶしくて目を細めた。トレイルの屋上のようだった。金属板の床が広がっている。その上に黒い布を被った大きな固まりがあった。 「よほどプレインが気に入ったようですな」  教授が何人かいた灰色つなぎのものたちに黒い布を取るように命じた。黒い布が払われ、白の翼を広げた鳥のようなものが現れた。 「ああ、魔力がなくても飛べるというのがいい」  そのとき、先ほどの梯子から頭が出てきた。 「教授、バレーから入電です」  教授がラウドに頭を下げた。 「殿下、少しお待ち下さい、すぐに戻ります」 ふたりを置いて梯子を降りて行ってしまった。ラウドが白色の鳥のようなプレインに近づいた。セレンがラウドの外套を控えめだが引っ張って止めようとした。ラウドは笑ってセレンを引き寄せた。その拍子にリュールがフードから零れ落ちた。 「来い、面白いものを見せてやる」
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