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先頭で一人馬に乗って進んでいた黒い布の男が、馬の鼻先を回した。
「よせ。商品は大切に扱え」
そう言い、再び前を向き、歩み出した。鞭の男が、倒れている子供たちを立たせ、歩くよう怒鳴って回った。
夜は、男たちは天幕を張った中で休み、子供たちは狭い荷台の上に押し込められた。横になることは出来ず、みなで寄りかかりあいながら、休んだ。
「…おうちに帰りたい…」
一番小さい子がすすり泣く。するとつられて次々に泣き出す。
「しっ。また怒られるわ、泣かないで」
一番年嵩の少女が心配そうに天幕を見ながら自分も泣きたいのを我慢してたしなめた。セレンは、いつセレンであることがわかってしまい、ひどい目に合わされるかとますます恐ろくなっていくばかりだった。
途中、わずかなパンと水を与えられるだけだったが、何とか飢えを忍び、十日ほどそのように歩きつづけて、山を越えた。越えたところに、町があった。山の向こうと異なって、雪はあまりなかった。王都に続く街道沿いの町で、路がレンガで敷き詰められていて雪も除けられていた。両脇には二階建ての家が立ち並んでいた。セレンの生まれ育った村からすれば、初めてみるような立派な町並だった。
町の真中を貫いている大通りは、馬車や荷車、人々の往来もあり、賑やかだった。行き交う人々は、縄で繋がれている子供たちに気づいて、眉をひそめていた。大勢の人たちのそのような視線を感じて、セレンたちはみな震えていた。黒い衣の男は、荷車の御者に何か言いつけ、四つ角で右に曲がり、荷車は左に曲がった。子供たちも荷車に続いていった。
町の外れに古びた宿があった。その裏にやってきた。御者が荷車を外した馬を馬小屋に入れた。宿の裏口から、中年で小太りの女が出てきた。ゆったりとしたスカートの上につけた汚れた前掛けで手を拭きながら、鞭の男に近づいてきた。
「今回は、多いね」
「ああ、秋嵐のせいで、飢饉のところが多かったからな」
鞭の男は、裏口から宿の中に入っていった。女が、子供たちを母屋と馬小屋の間に行くよう追い立てた。母屋の傍に別の小屋があり、蔀戸の間から白い煙が漏れていた。小屋の前に別の若い女が待っていて、扉を開けた。中からもわっと暖かい煙が出てきた。湯気だった。女は、子供たちを繋いでいた縄を小刀で切り、ひとりひとり、中に突き飛ばした。
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