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「さっさと脱いでお入り!」
中では、若い女が桶で湯を汲んで、子供たちに掛けていく。
「きゃぁ!」
いきなり湯を掛けられて、驚いて悲鳴を上げた。セレンは、服を脱ぐことが出来ず、後ずさりしていた。女が襟首を掴んで、服を剥ぎ取ろうとした。
セレンは、ころがって逃れた。一番年嵩の少女が覆い被さった。
「この子は、わたしが洗います!」
いらついた女が、若い女に顔を向けた。
「こいつがやるっていうから、後、やらせな」
若い女がうなずいて桶を置き、脱ぎ捨てられた子供たちの服を掻き寄せて出て行った。
「あそこの服着て、待ってるんだよ。逃げよったって、無駄だからね」
女が入口近くの棚を指さして、出て行った。少女が桶を取って、他の子供たちを洗い出した。床に倒れていたセレンが、後ろを向いているのを見て小さな声で言った。
「セレ…ナ…自分で洗って着替えて」
セレンがうなずき、端に行って、着ていた服を脱いで、別の桶で湯船から汲んだ湯で体を洗った。棚の服は、今まで着た事のないような、こざっぱりした綿の白い服で、身なりを整えるとみな、それなりの娘に見えるようになった。
ほどなく、女が戻ってきて、みなを宿の裏口から入れた。広い厨房では、丸々と太った賄い夫とさきほどの若い女が食事の支度をしていた。暖かいスープに肉、柔らかそうな白いパン、およそ年明けの祭りのときにも口にできないような献立だった。厨房を追い出され、向かった先は、大きめの納戸だった。客用の敷布や枕、荷物入れなどが置かれていたが、荷台ほどは窮屈ではなかった。扉が開いて、若い女がワゴンを運び入れた。
「わぁ…」
子供たちが、感嘆の声を上げた。さきほど厨房で見たスープや肉、白いパンだった。
「分けて食べな」
そういって出て行った。年嵩の少女が椀にスープを取り分け、渡していく。肉やパンも人数分あった。みな、むさぼるように食べた。セレンははじめ、ためらっていたが、回りの子供たちが食べ始めたので、追いかけるように食べた。貧しさが長く、もう何年もこのような食事をしていなくて忘れてしまっていたが、昔食べたことのある懐かしい味がした。家族を思い出して、胸が塞がれた。すっかり平らげてから、体を横にしてうとうとしていた。
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