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セレンは、急にもよおしてきてしまった。朝まで我慢できそうになく、みなを起こさないようにそっと納戸を出た。納戸は鍵など掛かっていなかった。宿の表側には酒場があり、にぎやかな笑い声が漏れ聞こえてきていた。暗い廊下を通って、厨房の裏口から外の厠に向かった。誰もいないのを確かめて、スカートの裾を捲り上げ、下履きを下ろして、用を足した。そのとき、頭の上から声がした。
「おいっ!おまえっ!」
セレンは驚いてひっくり返った。
明かり取りの窓から覗き込んで声を掛けたのは、鞭の男だった。腰を抜かしているセレンの腕を掴んで、宿の中に引きずりこんだ。納戸を乱暴に開け、セレンを中に投げ込んだ。
「おまえっ!おれたちをだましてたなっ!」
子供たちが飛び起きて、悲鳴を上げた。騒ぎに気づき、黒布の男と宿の女がやってきた。
「なんだ、この騒ぎは」
鞭の男が、セレンの服を剥ぎ取った。
「このガキ、小僧だぜ!」
素裸にして、股間を開かせた。セレンはあまりのことに声もなく震えるばかりだった。
「おやまあ、とんだことだね、小僧じゃ、明日の市で売れないじゃないか」
宿の女が呆れてセレンの体を蹴った。黒布の男が、腰を下ろしてセレンの顎を掴んだ。
「おれたちを謀って金を盗るとは、おまえの親父もずいぶんと舐めた真似してくれたな」
声は静かだが、かえって恐ろしさがあった。セレンの青い瞳から大粒の涙が零れた。黒布の男が腰の短剣を抜いた。回りの子供たちが悲鳴を上げた。
「こうすれば、小娘と変わらなくなる」
男の大きな手が、セレンの股間に伸びた。
「頭、ちょっ…」
鞭の男が息を呑んだ。
「ギャーアア!!!」
セレンが断末魔のごとき悲鳴を上げ、股間を真っ赤にして、気絶した。
男たちと女が酒場に戻った。
「飲みなおしだ」
黒布の男が杯を逆さに振った。酌婦がすぐに酒瓶を傾けた。年嵩の少女が駆け込んできた。
「お願いです!あの子をお医者さまに見せてやってください!」
しかし、男は黙って杯を傾けた。
「あのままじゃ、死んじゃう!」
少女が男の足にすがった。男が足を蹴り上げて少女を振り払った。
「死んでもいい。助かれば、娘として売り飛ばすだけだ」
少女が泣き伏した。同じ村で生まれ育ち、よく見知っている仲だった。ひどい目に会わされるとはわかっていたが、あまりにもむごい仕打ちに、打ち震えていた。
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