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言われた通り、みな横になって目を閉じた。その内、ヴォーンというかすかなうなりのようなものが聞こえてきた。少女が薄目を開けると、セレンの傷に向けている仮面の男の手元が白く光ったように見えた。なにか、見てはいけないもののような気がして、あわてて目を堅くつぶった。
ぐっすりとは眠れないままに朝を迎えた。男がセレンを抱きかかえていた。セレンは明け方大きな腕の中に抱かれていることに気がついたが、動けずにいた。
「セレン!大丈夫!?」
少女が覗き込んだ。まだ意識がはっきりしていない様子だったが、薄く目を開けて、小さく頭を動かした。
「まだ起き上がれないが、もう大丈夫だ」
男が手袋をした手でセレンの髪を撫でながら言い、静かに床に寝かせた。いきなり納戸の扉が開いて、宿の女が入ってきた。
「さあ、おまえたち、さっさと起きて、外に出な」
少女が最後までセレンを後ろ髪引かれるように見やっていた。黒衣の男が子供たちと入れ替るように入ってきた。ぐったりとしているが、セレンが生きているのを見て、冷酷な目が不愉快な色に染まった。
「助かったとはな。医者ではないと言っていたが、たいした腕ということだな」
宿の女が、後ろから覗き込みながら言った。
「今日の市には出せないね、次までこいつを飼っておくのかい」
黒布がセレンの腕をつかもうと手を伸ばした。
「いや、座らせておけばなんとかもつだろう。服もってこい」
仮面の男が伸ばしてきた手を叩き払った。
「重い傷なんだ、しばらくは養生させないと」
黒布が険しい皺を寄せた。
「さっさと厄介払いしたいんだ。これ以上口出すな」
そして、外套の中に包み込んでいるセレンを指差した。
「それとも、あんたがその小娘を買ってくれるとでもいうのか」
仮面の男が、一度腕の中のセレンを見、黒布を見上げた。
「いくら払えばいいんだ」
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