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別れの日は涙が止まらなかった。
みじめったらしく、おうおうと吠えるように泣いている俺に、ユキは言った。
「和希はこれからもずっと大切な家族だ。だから、泣かないで」
優しいユキの指が俺の涙をぬぐう。抱きしめた身体は驚くほど小さい。いや、俺が大きくなったんだ。「家族」なんかくそくらえ。本気でそう思った。
「和希、権限、サンキューな。……約束は絶対守るから」
「条件つきだ、てめえユキを泣かしたら殺す」
「ユキに涙の設定はないよ」
俺らはお互いの両頬を存分につねると、強くハグした。
別れの時が来た。二人は俺に向かって手を振る。改めて見ると、二人は兄弟はおろか親子にすら見えない。ハルは美少年好きの変態オヤジで、ユキは買われた美少年そのもの。ハル、信じられるか?俺らはいつのまにかユキの設定年齢を20も追い越してしまったんだぜ?
二人は、AIと人間の結婚が合法化された国へ行く。
俺は心から二人の幸せを願うと同時に、もう、ユキの作ったドーナツが食べたくてしょうがなく、子どもみたいに地団駄を踏んで、泣くのやめることができなかった。
「ハルと出会わなかったら、そして和希が家族じゃなかったら、和希に恋してた」
くそうくそうくそう、ハルめ。くそうくそう「家族間恋愛禁止設定」め。
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