第三話 それぞれの思惑

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「相変わらず食えない奴だな。私とミカエルのやり取りを聞いていたであろう? 白を切るでないぞ、天界の平和についての事だ」  呆れたように溜め息をつきながらルシフェルは問う。 「あなたに召し上がっていただこうなどとは毛頭も思いませんが……そうですね、ルシフェル様が何を意図されているか解りかねるので、全面的に賛成は致しかねますが……。あまりに平和で穏やかな日々が続くと、何が平和なのか解らず、刺激が欲しくなり争いを起こしたくなるかも、しれませんね。物事は、両極があって初めてわかるものですから。つまりは両極の比較対象が必要かと」  ガブリエルは至極真面目に、真っ直ぐルシフェルの瞳を見つめながらそう答えた。 「……召し上が……っ、そういう意味ではないだろう、まぁ良い。そなたの意見も聞けた事だしな。ガブリエル、ミカエルの相手を頼む」  苦笑を交えながらもそう答え、その場を立ち去ろうとするルシフェルの前に、素早く瞬間移動するガブリエル。その手には剣を構え、ルシフェルの首元を狙う。瞬時に白いオーラで身を包み防御するルシフェル。その一瞬の出来事を目前にしたミカエルは、まだまだ自分は未熟であるという事実を目の当たりにする……。 「ルシフェル様、あなた、何を考えておいでです?」  尚も剣を構えながら鋭い口調でガブリエルは問いかけた。 「いきなり攻撃か?まぁそう慌てるな。時期がきたらそのうち解るさ。嫌でもな」  そう答え、ガブリエルの剣をオーラで軽く弾き、 「ミカエルの相手を頼むぞ。基礎から徹底的にな」  そう言い残してその場を立ち去る。ガブリエルは厳しい眼差しでルシフェルの背中を見送った。そして不意に、優しい表情を浮かべ微笑みながらミカエルに向き合った。その微笑みは、まるで花が開くかのようだ。思わずその美しさに見惚れ、それを見たものは自然とつられて笑顔になってしまう。  ミカエルもその例に漏れず、いつの間にか微笑んでいた。 「さぁ、ミカエル様、まずは剣の稽古から参りましょうか」  と言うガブリエルの提案に、 「あぁ、宜しく頼む」  と素直にミカエルは答えるのであった。
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