第三話 それぞれの思惑

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 意を決したように、不意に鋭い顔つきになるルシフェル。 「ラファエル、聞きたい事がある!」  と唐突に告げた。それを受けて、穏やかに頷くラファエル。 「人間界について、どう思う?醜い争いが絶えないようだが……」  とルシフェルは続けた。相変わらず穏やかな表情のまま 「人間界、ですか。……私は、正直あまり人間には関心がないのですが、私に与えられた役割は、癒やしですからそうも言っていられません。確かに争い事が増えましたから、私を呼ぶ人間達は増え続けていますね。不可侵条約と申しましても、ウリエルとメタトロンと私は、地球自体が悲鳴を上げる危険性がある時は、パワーを送らなければなりませんから」  そこで言葉を切った。そして、何かを考えるように遠くを見つめる。やがて 「人間達が争う事の原因の一つに、先が見えない不安感、というのがあると思います」  とハッキリ答えた。 「と言うと?」  ルシフェルは促す。ラファエルは僅かに悲しみを帯びた表情を浮かべると 「先が見えないから、答えを求めます。その答えこそが、権威あるものが創り上げたもの。例えば、幸せの形。成功の形。それらに本来、答えも正解も優劣もありません。人間一人ひとりの個性が異なるようにゼウス様がお創りになられたのですから、幸せや成功の形は人それぞれ異なるものです。ですが個性を活かす、という事を目立ち煌びやかに活躍する事だ、と誤解するものも多くいますね。 そうではなく組織の中でこそ、その能力を発揮するものも居れば、専業主婦で家族の為に主婦業に専念する事で、家族も活き活きと輝き、本人も自然体で輝く。そのような場合も多々あります。 自分がどのタイプかを知る為に占いがあります。それらを否定し華々しく活躍する事こそが成功だと提唱し、そこを利用して私達の名を語る者も沢山出てきています。自分を見失ってしまった者は、その権威ある者達を無条件に信じて彼らに答えを委ねてしまう。例えばアセンションという言葉が地球で以前流行ったようですが……。それは私達を目指す事ではなく、各自が与えられた人生をしっかりと丁寧に大切に生きていく事、なのですが……。 ですが、間違って提唱された事を信じる事で、その者が安心できるならそれもありでしょう」  と静かに語った。
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